区分所有法59条は、区分所有者の共同の利益に反する行為をしている区分所有者をマンションから排除するために区分所有権を競売にかけることができる制度を設けています。これを俗に「59条競売」と言っています。
マンション管理費の滞納問題との関係では、単に競売ができるだけなら、もともと管理費には先取特権が認められていますし、判決を取って強制執行を行うこともできますので、何も59条競売に頼る必要はありません。
しかし、59条競売には先取特権や判決に基づく競売とは決定的に異なる点があります。それは、無剰余取消し(民事執行法63条2項)の適用が無いと解釈されていることです(東京高裁平成16年5月20日決定判例タイムズ1210号170頁)。つまり、区分所有権に住宅ローン債権者等の抵当権が設定登記されていて、管理組合が先取特権や判決に基づいて競売の開始決定を得ても、管理組合への配当の見込が無いために開始決定が取り消されてしまうような場合でも、59条競売であれば競売を続行させることができます。
競売代金が抵当権者に持って行かれてしまうことには変わりがありませんが、管理組合としては、区分所有法8条に基づいて新区分所有者に支払いを求めることができますので、滞納管理費の回収実現につながるのです。
まさに管理費滞納問題解決の「最後の手段」といえます。
59条競売の競売手続きは、競売請求を認容する判決に基づいて申し立てる必要があります。つまり、まずは民事訴訟として区分所有権競売請求事件の訴訟提起をする必要があります。
そして、この訴訟提起をするためには、管理組合の総会で特別多数決議(区分所有者及び議決権の4分の3以上)を経なければなりません。また、この総会では、相手方となる区分所有者に弁明の機会を与えなければなりません。
では、どのような(実体的)要件を満たせば、59条競売請求の訴訟で請求認容の判決をもらえるのでしょうか。
この点がなかなか難問です。
というのも、区分所有法59条の規定は抽象的であり、とくに必ずしも管理費滞納問題の解決を図るために立法されたものではないこともあって、管理費滞納問題に適用する場合にどのような要件を満たせばよいのかは法律の文言から一見して明らかではないからです。
同条の要件は、①共同の利益に反する行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しいこと、②他の方法によってはその障害を除去して区分所有者の共同生活の維持を図ることが難しいこと、と整理されています。
裁判所には、当該滞納問題が①②の要件を満たすことを訴えていくことになります。