この点,特定承継人は,民法148条の時効中断の効力が及ぶ「承継人」にあたり,かつ民事訴訟法115条1項3号の確定判決の効力が及ぶ口頭弁論終結後の「承継人」にあたるとして,積極に解した裁判例があります(大阪地裁平成21年7月24日判決判例タイムズ1328号120頁)。
結論は妥当だと思いますが,特定承継人が「承継」したのは,区分所有権であって管理費等の債務ではなく,特定承継人は区分所有法8条に基づいて債務を負うに過ぎませんから,「承継人」にあたるとする理由付けには疑問の余地があります。
この問題は,次のように考えられるだろうと思っています。
すなわち,消滅時効は,「権利を行使することができる時から進行する」ものです(民法166条1項)。区分所有権が譲渡される以前には管理組合が特定承継人に対する権利を行使することはできないのですから,本来,特定承継人に対する時効は進行しないはずです。にもかかわらず特定承継人が管理費の発生時を始期とする時効を援用できるとすれば,それは特定承継人の負う債務が元の区分所有者の債務を重畳的に債務引受けしたものだからでしょう。債務引受けだから,引受けの時点で元の債務者が有していた抗弁を主張することが許されるのです。だとすれば,その抗弁に付着した再抗弁(中断,確定判決の存在)の事実も,当然に引き継がなければなりません。