管理規約は区分所有関係を規律する重要なルールです。しかし,法令と違い,裁判所にとって何がその組合の規約かは予め分かっているわけではありませんから,裁判となれば,規約の成立を立証する必要を生じることがあります。では,どうやって規約の成立を立証するのでしょうか。
区分所有法が本来予定している規約制定の方法は,①最初に専有部分全部を所有する者が公正証書によって設定する方法(区分所有法32条),②区分所有者の集会における特別決議で設定する方法(同法31条1項)の2つです。①であれば,公正証書そのものが立証手段となりますし,②であれば,集会の議案書と議事録で規約の成立を立証することが可能です。
もっとも,今日,多くのマンションでは,分譲時に分譲業者が購入者から規約案に対する承諾書を取り付けることで原始規約を成立させています。この方 法による規約の制定は,区分所有法45条2項が,区分所有者全員の書面による合意があったときは,書面による決議があったものとみなしているため,上記② の特別決議が存在しているのと同様になることで認められるものです。この方法による場合は,「全員の書面による合意」が要件ですから,承諾書が1通でも欠 ければ,規約の成立は認められない理屈となります(稻本洋之助他著『コンメンタール マンション区分所有法〔第2版〕』241頁)。すなわち,規約の成立 を立証しようとすれば,区分所有者全員分の承諾書を提出しなければならないのが原則です。
ところが,分譲時の承諾書については,保管してい た分譲業者が倒産したり,管理会社が変更された際に引き継がれなかったりして散逸してしまっているケースが見られます。その場合,規約成立の立証に窮する こととなってしまいます。事案によっては,裁判所が何らかの法理によって立証の不備を救済してくれることもありうるでしょう。ですが,常にそのような救済 に依存する状態は避けたいものです。
この点,規約の全面改正をしたり,そうでなくとも規約の一部改正に併せて規約全体について改めて承認する特別決議をしておけば,以後,規約の成立を争われる心配は無くなります。このことも,規約改正に取り組むことのメリットといえるかも知れません。