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2018/12/16

台風被害と土地工作物責任

今年、近畿地方は、台風21号の直撃を受けました。この台風が通過した際に強風によって屋根瓦や看板等、様々な物が飛散したことは、ニュースでご覧になった方が多いと思います。このように強風で飛散した物が近隣住戸の窓ガラスや自動車等に衝突して損害を与えた場合、法的な責任はどうなるのでしょうか。分譲マンションのバルコニーにある何らかの設備(仕切り板等)が強風で破損・脱落し、飛散して近隣に被害を与えたというケースを例に考えてみたいと思います。

被害者の立場で法的な責任を追及する場合、土地工作物責任(民法717条)を根拠とすることが考えられます。土地工作物責任は、加害者の過失及び過失と損害との相当因果関係の存在が要件となっていない点で、一般不法行為(民法709条)よりも被害者にとって有利だからです。

土地工作物責任の主体は一次的には占有者であり、占有者が損害の発生防止に必要な注意をしていた場合に限り、二次的に所有者が責任を負います(民法717条1項ただし書)。

では、バルコニーの占有者は誰でしょうか。

バルコニーの付された専有部分の区分所有者が当該専有部分に入居している場合、区分所有者はバルコニーを日常的に排他的に使用しているわけですから、占有者としてまず考えられるのは、当該区分所有者でしょう。

しかし、管理組合も、占有者として認められる可能性があります。民法717条は、土地工作物が危険の発生源であることに着目し、その危険の現実化を回避しうる立場の占有者に第一次的な責任を負わせたものであることからすれば、危険の現実化を回避しうる立場である者を「占有者」と認めることが相当であることになります。この点、バルコニーは共用部分であり、共用部分の設備が老朽化等していた場合に設備を更新する権限を有するのは管理組合です。したがって、何が飛散したのかにもよりますが、危険の現実化を回避しうる立場にあったのは管理組合であるとして、管理組合が占有者と認められることが考えられます。

では、瑕疵が認められるのは、どのような場合でしょうか。

この点、台風で物が飛散したという事象に関する裁判例は乏しく、私が知る限り、公刊された判例誌に掲載されたものは、福岡高判S55.7.31判タ429号130頁くらいです。

この裁判例は、台風による屋根瓦の飛散による被害につき、瑕疵を認めていますが、秒速14.5メートルに過ぎない時点で飛散を始めたこと、飛散の状況が付近一帯の建物の屋根に比べて大きかったこと、などの事情を認定したうえでの判断であり、一般的に瑕疵の有無を判断するための基準を提供するものとはいえません。

自然災害が関係した場合の瑕疵の判断についてよく引用される裁判例に、地震によってブロック塀が倒壊した事案にかかる仙台地判S56.5.8判タ446号48頁があります。

この裁判例は、当該ブロック塀築造当時、仙台で過去に震度6以上の地震が観測されていなかったことを認定したうえで、震度5の地震に耐えうる強度であったか否かという基準で瑕疵の有無を判断しています。有力な学説は、この裁判例を念頭に置いてだと思われますが、「予想される震度が最大で4程度とされている地域で、震度7の地震が発生してブロック塀が倒壊したときに、このブロック塀の瑕疵の有無を判断するに際しては、まず、通常予想される危険として震度4の地震を捉え、次に、震度4の地震に耐えうるには当該ブロック塀がどれほどの耐性を備えているべきであったかという観点から判断をすべきである」と論じています(潮見佳男『不法行為法Ⅱ〔第2版〕』257頁)。

しかし、その論理では、一度でも震度7の地震を経験した地域では、震度7の地震に耐えられない工作物はすべて瑕疵があることになり、震度5しか経験していない地域では、震度5に耐えうる工作物はすべて瑕疵がないことになってしまいそうです。

誰しもが加害者にも被害者にもなりうる土地工作物責任の解釈として、それが適切なことなのかどうかは疑問です。

少なくとも、そのような考え方が裁判例の一般的な考え方ではないと思われます。

豪雨によって擁壁が崩落した事案において東京高裁は、工作物の『瑕疵』とは「社会通念上具備を期待し得べき性能ないし安全性の欠缺を指称するもの」だとし、当該豪雨の雨量は予想不可能ではなかったこと、当該雨量に耐えうるように改修することは技術的には可能であったことを認めつつ、擁壁設置当時の技術上要請される最低限のことはなされていたこと、崩落事故発生までは異常がなかったこと、上記改修のような措置は鉄道関係等を除いて行わないのが普通であること、などの事情を認め、「社会通念上具備を期待し得べき性能ないし安全性」を欠いていたとはいえないとして瑕疵を否定しました(東京高判S37.5.30下民集13巻5号1099頁)。

先に引用した潮見教授の著書には、「工作物の安全性に対する合理人の正当な期待は何かという観点からみて、通常予想される危険性を前提としたときに、当該工作物がどのような安全性を備えているべきかを、事故当時の科学技術水準に即して規範的に判断していけばよい」との論述もあります(潮見前掲書253頁)。

この論述は、むしろ上記の東京高判の判断と整合的と思われます。

すなわち、問題とすべきは「その地域で過去最大の災害」に耐える耐性を備えているか否かではなく、社会通念に照らしてその種の工作物に期待される安全性を備えているか否かです。「期待される安全性」に関する「社会通念」の内容は、予想される災害による被害の大きさとその発生確率、危険を回避するための措置に要する費用、現にそのような措置が一般的に取られているのか否か、といった事情に左右されるものと考えられます。

 今般の台風21号は、各地で最大瞬間風速の観測史上1位の記録を更新したと報じられています。したがって、「その地域で過去最大の災害」を超える災害が襲ったのだとすると、上記仙台地判のような考え方に従った場合、瑕疵があったと容易には認められないものと思われます。

通常の仕様・工法で設置され、これまでの台風に耐え、直近もとくに不具合の認められていなかった設備が飛散したケースを前提とする限り、その結論自体にとくに異議はありませんが、では、次はどうなるでしょう。来年、台風21号と同程度の台風が来襲した場合、飛散した工作物はすべて瑕疵があったとなるのでしょうか。

 一律にそう考えるのは妥当でないように思います。もちろん、今回の事象を受けて再発の防止に努めることは望ましいことですし、そのような動きが進展した結果、社会通念に従って「期待される安全性」のレベルが上がることはありうるでしょう。瑕疵がより広範に認められるとすれば、それは、そのような「社会通念」の変化によるのであり、その「地域で最大の災害」の記録が更新されたことの当然の結果として、そうなるべきものではない、と私は考えます。

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