団地管理組合は、規約により、団地内の「附属施設たる建物」(区分所有建物の「部分」を含む)を「団地共用部分」とすることができます(区分所有法67条1項)。上記の「部分」は、独立性があって専有部分となりうる「部分」でなければならないと解されています。
では、そのような独立性のない建物部分、たとえばピロティーや玄関ホールについて規約で「団地共用部分」と定めた場合、そのような規約の規定は違法・無効というべきなのでしょうか。
このことを考えるにあたっては、まず区分所有法上の団地共用部分とされた場合にどのような効果を生じるのかを理解する必要があります。
ある建物又は建物部分が区分所有法上の団地共用部分とされた場合、区分所有法67条3項により、同法11条1項本文、同条3項、13条~15条が準用されることになります。
その結果、当該建物又は建物部分の持分は以後、専有部分と一体化して扱われます。そして、団地共用部分としての登記があれば、専有部分を処分したときには、その処分の登記をすれば足り、団地共用部分の持分の処分について別に登記をする必要がなくなります。ある建物又は建物部分を「団地共用部分とすることの実益は、専らこの点に存する」とされています(法務省民事局『改正区分所有法と登記実務』82頁)。
この点、ピロティーのような独立性のない建物部分である共用部分については、初めから登記はできず、その持分の処分は当然に専有部分の処分に従います(同法11条3項、15条)。したがって、独立性のない部分については区分所有法の団地共用部分として認めたとしても、上記の「実益」がありません。すなわち、団地共用部分とすることができる「部分」から、独立性のない部分が除かれているのは、これを団地共用部分とすることによる何らかの弊害を排除するためではなく、単に独立性のない部分について区分所有法上の団地共用部分と認める必要がないことによるものと理解できます。
では、独立性のない建物部分を団地共用部分として定める規約の規定は、意味が無いから無効なのでしょうか。
確かに、区分所有法67条3項の効果が生じないという意味では無効です。
しかし、団地管理組合の規約には、通常、「団地共用部分」の特別な管理に要する費用は団地修繕積立金を取り崩して出捐し、棟共用部分のそれは棟修繕積立金を取り崩して出捐する、といった規定が設けられています。
その場合、大規模修繕の際、当該規約において「団地共用部分」とされた箇所の修繕に要する費用は、たとえ当該部分に独立性がなく、区分所有法上の団地共用部分に該当しないとしても、団地修繕積立金から支出することになります。
このように区分所有法上の団地共用部分に該当しない建物部分の修繕費用を団地修繕積立金から支出し、団地建物所有者全体の負担とすることは、区分所有法に反して許されないのでしょうか。
そのようなことはありません。区分所有法は、団地内の区分所有建物全部を団地管理の対象とすることを認め(同法68条1項)、その費用の負担については持分に応じて負担することを原則としつつ、規約で別段の定めを設けることを認めています(同法66条が準用する同法19条)。
すなわち、独立性のない建物部分を団地共用部分とする規約の規定は、修繕積立金の使途に関する規定等とあいまって、当該部分にかかる費用負担の「別段の定め」として意味があり、有効であると解することができます。とくに、当該部分が、当該部分の存する棟の区分所有者のみならず、他の棟の区分所有者にも開放されており、利用されることが予定されているような空間である場合には、そのような規定には合理性があるでしょう。
このことは、規約において、「団地共用部分とは区分所有法67条1項所定の団地共用部分をいう」とする定義規定があったとしても同様です。
その場合、当該定義規定と、独立性のない建物部分を団地共用部分として定めた規定との間に相互に矛盾があることになりますが、確かに言えることは「矛盾がある」ということまでです。
矛盾があるから、どちらかの規定を修正して理解する必要があることになりますが、後者(団地共用部分を定めた規定)には費用負担方法を定める積極的な意図があると考えられること、また、上述のとおり前者が引用している区分所有法67条1項が独立性のない部分を団地共用部分の対象から除外している趣旨は無意味だからであるに過ぎず、除外する積極的な理由があるわけではないと考えられることからすれば、前者を後者と適合するように「団地共用部分とは区分所有法67条1項所定の団地共用部分〔及びこれに準じて団地建物所有者全体で管理の費用を負担するものとする部分〕をいう」と合理的に解釈するのが相当と思われます。
ところで、法律をよくご存じでない方は、法律用語の意味を常に同一であると考えがちであり、また「違法」の意味を一種類として理解しがちです。そのような思考方法からすると、区分所有法でも規約でも「団地共用部分」の意味は同じでなければならず、両者が齟齬している場合、規約の規定が違法であり、違法であるから無効である、といった解釈をしがちです。
しかしながら、実際には、法律用語が異なる場面では異なる意味で用いられることは珍しくありません。また、ある事象が法律に適合していないとしても、適合していないことの効果は様々です。
なるほど、区分所有法上の団地共用部分とならない部分を規約において「団地共用部分」と呼んだとすれば、法律に則した言語使用をしていませんので、その意味では法律に適合しておらず、混乱を招く恐れがあって不適切というべきかも知れません。
しかし、区分所有法は同法上の団地共用部分でない建物部分を「団地共用部分」と呼ぶことを禁じていません。したがって、違法とまでは言い難いですし、まして無効という結論が当然に出てくるものではないのです。