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2026/05/21

「一部の区分所有者の権利」とは

区分所有法31条1項後段には、「規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない」とあります。

この規定が適用される「規約」は、「一部の区分所有者の権利」のみを対象とする規約に限定されるのでしょうか。それとも、そのような限定はなく、形式上は区分所有者全員の権利を対象とする規約であっても、「一部の区分所有者」に「特別の影響を及ぼすべきとき」にあたれば適用されるのでしょうか。


前者の見解を「限定説」、後者の見解を「非限定説」と呼ぶこととすると、この点、限定説に立っているかのように読める記述をした著名な文献があります。

すなわち、稻本洋之助他著『コンメンタール マンション区分所有法〔第3版〕』は、区分所有法31条1項後段の解説中で、規約の設定等の「影響が区分所有者全体に一律に及ぶ場合には、個々の承諾は必要でない」と述べています(同書200頁)。それだけなら、条文の文理上当然のことを述べたに過ぎないとも言えますが、当該箇所には、「たとえば、居住用マンションにおいて専有部分の使用について居住目的以外の使用を禁止する規約やペットの飼育を禁止する旨の規約などは、その影響が区分所有者全体に一律に及ぶから・・・その承諾を得る必要はない」という一文が続きます(傍点引用者)。

 

ペットの飼育を禁止する規約の制定は、ペットを飼育し、今後も飼育する意思のある区分所有者には大きな影響があります。他方、ペットを飼育しておらず、今後も飼育する意思のない区分所有者には、ほとんど影響がありません。すなわち、個々の区分所有者の属性により、規約の制定が及ぼす「影響」は何ら一律ではありません。

それでも、同書は、「その影響が区分所有者全体に一律に及ぶ」と決め付けています。このことからすると、同書は、規約の制定等が区分所有者の権利内容に直接与える変化自体(従来自由であったペットの飼育が以後、禁止されるという権利内容の変化そのもの)をもって上記法条にいう「影響」とみなしているかのようです。そうだとすれば、同書は、限定説に立っていることになるでしょう。権利内容の変更自体が一律である限り、当然に「影響が区分所有者全体に一律に及ぶ」ものとされて、区分所有法31条1項後段の適用対象外となるのであれば、その適用対象は、権利内容の変更自体が一律ではない場合、すなわち、「一部の区分所有者の権利」に限って権利内容が変更される場合に限定されることになるからです。

 

実際、同書を限定説を述べるものとして読んだ裁判官がいます。

当職が原告代理人として担当した事件で、原告が区分所有法31条1項後段を根拠に規約改定決議の無効確認を求めたのに対し、担当した裁判官は、当該規約改定が区分所有者全員の権利内容を一律に変更するものであり、「一部の区分所有者の権利」を変更するものではないという趣旨のことを述べて、「特別の影響を及ぼすべきとき」か否かを論じるまでもなく、区分所有法31条1項後段の適用場面にあたらないと主張し、根拠として上記文献を挙げました。

 

しかし、限定説に充分な根拠があるのかは大いに疑問です。

区分所有法31条1項後段は、規約の制定改廃について、同法が従来は原則として区分所有者全員の合意によるものとしていたところ、昭和58年改正により、これを集会の特別多数決議によるものとして多数意思に基づく管理の円滑化を図った際に、一方で少数者の利益が著しく害されることがないようにその保護を図って設けられた規定です。少数者の利益を保護する必要があることは、規約の制定形式上、区分所有者全員の権利を対象とする規約であっても異なりません。しかるに、その適用対象を一部の区分所有者の権利のみを対象とする規約に限定したのでは、少数区分所有者の保護という立法趣旨が全うされません。

他方、非限定説に立ったとしても、一部の区分所有者に対する影響が「特別の影響」と評価されなければ、区分所有法31条1項後段が適用されることはありませんから、過度に少数区分所有者の保護に傾くことにもなりません。

 

条文に照らしても、区分所有法31条1項後段の条文に、適用対象となる規約の種類を「一部の区分所有者の権利のみを対象とする規約」に限定する文言はありません。これに対し、適用対象となる規約が限定される区分所有法30条2項には、「一部共用部分に関する事項で区分所有者全員の利害に関係しないもの」という、適用対象となる規約を特定・明示する文言があります。区分所有法31条1項後段の適用対象を「一部の区分所有者の権利のみを対象とする規約」に限定するのは、条文にない要件を解釈上、追加するものと言わなければなりません。そして、そのように解釈上、要件を追加しなければならない必要性も相当性もないのです。

 

実際、同法の昭和58年改正作業に携わった担当者は、その著書の区分所有法31条1項後段にかかる解説の中で、「『専有部分は専ら住居として使用するものとし、他の用途に供してはならない』というような規制」について、営業用に購入した区分所有者等との関係で「『権利に特別の影響』を及ぼすものと言わざるを得ない」と記載しています(法務省民事局参事官室『新しいマンション法』197頁)。

専有部分の用途を「住居」に限定する規約は、その制定形式上は、区分所有者全員の権利を制約しており、「一部の区分所有者の権利」のみを対象とするものではありません。したがって、上記立法担当者が非限定説に立っていることは明らかです。

 

以上から、非限定説が妥当と考えられます。

上述の、当職が裁判官から限定説に基づく指摘を受けた事件では、裁判官から限定説に基づく主張をするよう促された相手方がその旨の主張をしましたが、当職が上述のような論拠に基づいて反論したところ、相手方から再反論はありませんでした。結局、判決では、当該論点について相手方の主張は退けられ、非限定説を前提として、判例の判断基準に従って「特別の影響を及ぼすべきとき」の要件に該当するか否かの判断がなされました。

 

ところで、限定説のような解釈が生じる背景には、区分所有法31条1項後段の条文自体に誤解を招く要素があるとも言え、やや稚拙な立法であるように思えます。というのは、条文に「権利」という語があることが、限定説のように「一部の区分所有者の権利」そのものに変更を生じる場合のみに適用されると解釈する余地を生んでいるわけですが、「一部の区分所有者の権利(に特別の影響を及ぼす)」との文言は、立法趣旨に照らせば、「少数区分所有者のみが不利益を被る場合」を適用対象として抽出するために設けられたものと解されるところ、同じ趣旨は「権利」の語を抜いても表現できるからです。このことは、令和3年物権法改正によって設けられた民法252条3項の条文が示唆しています。条文は、次のとおりです。

 

民法252条3項

    前二項の規定による決定が、共有者間の決定に基づいて共有物を使用する共有者に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。

 

同項は、区分所有法31条1項後段を参考にして立法された条文でありながら、そこに「権利」の文字はないのです。

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