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2026/06/02

総会議案を取り下げることは許されるか

総会招集通知に議案書を添付して組合員に配布した後、議案書に記載された議案を理事会の判断で取り下げ、総会で採決しないことに法律上の問題はあるでしょうか。

この点、理事会が決めた議案を理事会の意思で取り下げることができるのは当然とも言えそうです。しかし、当職の関係したある事案では、総会の場で取下げの是非が議論された際、出席者から議案を採決しないことの適法性について疑義が出て、助言を求められた管理会社の担当者が採決するように勧めたこともあって、そのまま採決に進んだ、というケースがありました。そこで、取下げは許されないとする見解に根拠があるか、検討してみたいと思います。


まず、区分所有法上、総会において決議できる事項は、原則として招集通知に記載して通知した事項に限定されています(区分所有法37条1項)。したがって、通知していない事項について決議することは許されません。

他方、通知した事項について採決しないことについて、同法には特段の規定はありません。したがって、議案を取り下げ、通知した事項について採決しないことが当然に違法となると解すべき根拠は区分所有法にはないと言えます。

 

では、規約上はどうでしょうか。標準管理規約を前提に考えてみましょう。

標準管理規約にも、招集通知に議案の要領を記載した議案について必ず決議しなければならないとする規定は見当たりません。

むしろ、標準管理規約上、総会提出議案の決定が理事会の議決事項として定められていることからすると(54条1項1~4号)、議案の取り下げも広い意味での議案の決定に関する事項として理事会の決定に委ねていると解することもできそうです。

 

ただ、その場合、取下げにも理事会決議が必要と解したときには、そのことが事実上、取下げのネックとなる可能性があります。

標準管理規約上、理事会の招集は、原則として会日の2週間前に通知することを要し、緊急を要する場合に理事及び監事全員の同意がある場合であっても1週間前に通知しなければならないものとされているからです(52条4項)。会社法上、取締役全員の同意があれば招集手続を省略して取締役会を開催できるとされていること(会社法368条2項)と比べ、規定の合理性には大いに疑問を感じますが、この標準管理規約の規定を前提とすると、総会開催日まで1週間を切った時点で理事長が「取り下げるべき」と判断した場合、理事会を適法に招集し、開催することができないために、取下げの決議はできないという解釈の余地を生じます。

 

しかし、理事及び監事も組合員として、総会が開催される日時に総会の開催場所に2週間以上前に招集されているはずです。したがって、その時刻・場所で理事会を開催する場合、理事会の招集通知は、実質的には2週間以上前に行われていると評価することも可能と思われます。少なくとも総会当日に理事・監事の全員が出席して理事会を開催した場合、形式的には総会招集通知と別に理事会開催を明示した招集通知が1週間以上前に行われていないとしても、決議を無効とするような重大な瑕疵にはあたらないというべきでしょう。

 

また、そもそも議案の取下げに理事会決議という手続きを必要的と解すること自体も疑問です。標準管理規約は、議案の決定を理事会の議決事項として定める一方で、その取下げについては、理事会の議決事項として挙げていません。その趣旨は、取下げについては理事会決議という手続きを経るかどうかも含めて理事会の判断に委ねているものと解しうるでしょう。

理事会決議で決めた議案について、理事長の独断で取り下げることは許されないとしても、理事会の多数意見が取下げを支持している場合に理事長が取り下げることは、理事会決議の手続きを経たか否かにかかわらず、議案の決定を取締役会の議決事項とした規約の趣旨に反しないと解することが合理的と思われます。

 

ちなみに会社が株主総会で取締役会提案の議案を取り下げることについては、総会当日の取下げを含めて可能と解されています(大阪株式懇談会『会社法実務問答集Ⅲ』125頁、前田雅弘執筆部分)。

同書は取下げには取締役会決議が必要としていますが、取締役会決議は、上述のとおり招集手続の省略が可能とされていることを踏まえた解釈であり、招集手続きの省略を不可としている規約の下での総会議案の取下げについて、その部分に関しては同列に論じられないでしょう。

 

このように法律及び規約上、取下げを違法と解することには充分な根拠がありません。

それでも、なお異論が出るとすれば、議案書を見て当該議案について賛否の意思表示ができると信じて総会に出席した組合員や、あるいは現に議決権行使書を投じて賛否の意思表示を行った組合員の「期待」に反し、その意思表示が無に帰してしまうことが不当ではないか、という意見が考えられるでしょう。

 

しかし、当該議案に反対の組合員からすれば、当該議案の取下げによって可決が回避されるのですから、その意味では希望が実現することになります。議案が否決されたとしても改めて次回以降の総会に同様の議案を提出することに法律上、規約上、妨げはありませんから、その点で議案の否決と取下げとで効果に違いを生じるわけでもありません。

他方、当該議案に賛成の組合員にとっても、仮に理事会の意思に反して取下げを認めず、採決を強いたところで、理事会が委任状票を含めて反対に回ってしまえば否決される可能性が高く、採決を強いることの意味は乏しいでしょう。

要するに、「賛否の意思表示ができると思った」という組合員の「期待」は、さほど重視すべき重大な利益であるとは思えません。

 

仮に議案に対する賛否の意思表示の機会を期待する組合員のその「期待」を重視して取下げを不可とするのであれば、議案の取下げを禁止する規定を規約に設ければ足りることです。

規約に禁止規定がないということは、組合員らは、そのような期待を保障することよりも、理事会の判断による柔軟な組合運営を優先させているものと理解できます。

 

「期待」に反するという点を踏まえると、議案取下げの理由について、理事会が総会の場や総会審議の結果を広報する際に説明することで組合員の理解を得るよう努めることが望ましいといえるでしょう。しかし、それ以上に、「期待」に反するからといって議案の取下げを違法とすることには、やはり充分な根拠がないと思われます。

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